新日鉄と住友金属は12年10月の合併に向けて動き出した。公正取引委員会の審査がハードルだが、グローバル化に向けた我が国産業界の歴史的なイベントになることは間違いない。
21世紀に入って日本の鉄鋼業界はグローバル化の波に翻弄され続けた。
その第一波は、99年に日産のCOO(チーフ・オペレイティング・オフィサー)に就任したカルロスゴーン氏の登場だ。経営の建直しを急いだゴーンは自動車用の鋼材の調達方法を全面的な入札方式に切り替えた。この方式では、日産にとって価格など最も有利な条件提示したところが勝利する。つまり鉄鋼業界に市場原理の貫徹を突き付けた訳だ。
長年に亘って続いてきた鉄鋼業界の協調体制は崩れた。結果として、業界トップの新日鉄に対抗するために、03年に業界2位の日本鋼管と3位の川崎製鉄が合併しJFEホールディングが誕生した。
第二波はインドのラクシュミー・ミタル氏が率いるミタルスチールの台頭だ。ミタルスチールは89年に設立され、鉄鋼会社としては新興企業ながら、世界中で経営難に陥った鉄鋼企業の買収・再生を繰り返し、成長するという、全く新しいビジネスモデルで急成長してきた会社である。06年には欧州最大の鉄鋼企業であったアルセロールの買収に成功し、現在、世界最大の鉄鋼会社である。業績の不振と株価の低迷に直面していた日本の鉄鋼会社もその陰に怯えた。新日鉄、住友金属、神戸製鋼所の3社は02年、相互に株式を持ち合う資本提携に動いた。まさかの時に発動される買収防衛策など受け身な議論ばかりがその後も横行した。
第三波は旺盛な国内需要と国家資本主義による政策支援をバックとした、中国鉄鋼企業の目覚ましい躍進だ。かつて世界2位の粗鋼生産量を誇っていた新日鉄は、インド、中国の後塵を拝し、現在は6位にまでランクを落としている。また、原材料である鉄鉱石、石炭においても、豪州・南ア連合のBHPビリトン、ブラジルのヴァーレによる寡占化も加速している。
欧米日を中心とする、誇り高き鉄鋼マンよる世界秩序はもはや過去の話である。時代はとっくに技術や品質よりも市場支配力などのパワーが物を云う、バトルフィールドに変わりつつある。だがしかしである。産業としての鉄鋼業は今もそしてこれからも経済活動や様々な産業を支える重要な産業であることは変わりなかろう。
CO2削減など環境問題でも極めて重要な役割を担っている。今のようなパワーゲームに頼った情況が続くだけではそもそも産業としての未来は暗い。
両者の合併が実現すると粗鋼生産量で世界第2位の規模になる。是非、これから誕生する新会社には、その規模と世界トップの高い技術力を生かし、グローバル目線で、21世紀型の新しい世界の鉄鋼業界の在り方を切り開いて欲しい。そうしてこそ後世に誇れる歴史的な合併として世界の産業史に刻まれるはずだ。