案外知られていないことだが、ベトナムは東南アジアで唯一の儒教文明国である。
したがって日本とベトナムは考え方や価値観で共通するものが多く、イデオロギーは全く異なるが、ある種の同胞意識さえ感じられる。現在の日越関係もかなり良好といえる。道路、鉄道、港湾、鉄道などベトナムのインフラ建設には日本から多額のODA(政府開発援助)がつぎ込まれている。また財政・金融分野の人材育成などソフト型のベトナム支援も活発に行われている。
一人当たりGDPは凡そ1000ドル程度で日本に比べれば当然ながら遥かに貧しい。経済的豊かさという尺度で物を見る癖が染みついた我々日本人はベトナムに対しても上から目線になりがちである。しかし、私は今年5月にベトナムに出張した際に、目からうろこの経験をさせられた。
それは、ハノイから70キロ北にあるタイグエンという市の大学を訪問した時のことである。丁度昼休みごろ、かなり大勢の若い男女が自転車に乗って、しかも揃いの緑色のユニホームを着て、大学にやって来るのに出くわした。案内のガイドに尋ねると軍事教練中の学生であるとのこと。ベトナムでは男子は18から20歳まで徴兵制度があるが、大学生は免除されるそうである。その代わり大学生は、一ヶ月間、男女を問わず軍事教練を受けなければならない。自動小銃の射撃訓練までする本格的な訓練だそうだ。「一体このご時世、どこの国と戦うつもりなのですか」とガイドに聞くと、「もちろん中国です」。「なぜ中国なのですか」と問うと、「中国はベトナムにとって最も信用できない国です」「中国が攻めてきたら我々は全員武器を持って戦うのです」。
自分の国は自分で守るということは当然のことである。この当たり前がきちんとできているベトナムと、いまだに安全保障を巡って議論が錯綜している我々日本と、どちらがまともか。私は思わず考え込んでしまった。